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2004年05月20日

予告編

始まりは赤い月

 真っ赤な月を背に負って、一人の少女がアルミサッシの窓辺に腰掛けている。

「ケーキが食べたいな」

 呟いた彼女の視界、暗い部屋には倒れ伏した人、人、人……の、部品。既にバラバラになったそれは、じくじく赤い水を垂れ流している。

「……紅茶も飲みたいの」

 呟いた彼女の鼻孔をつく芳しい香気。
 逆光の中、彼女は窓辺を離れて赤い水の中に膝を突く。ぱっくりと開いた喉頸からとろとろと流れ出る赤い水を両手で掬い、口元に運んだ。

「お砂糖が欲しいわ」

 けれど少しはお腹が満ちた。
 いつものケーキや紅茶より味はあんまり良くないけれど、ここでは狩りが出来る。
 獲物を追い立てるのはとても気持ちがいい。こんな狭い処じゃなくて……もっと広い処で狩りがしたいな。
 彼女はくるりと振り返り、膝に付いた水をハンカチで丁寧に拭ってアルミサッシの上に立つ。
 口唇は赤く赤く染まり、月光がそれを尚赤くする。視界の下、黒々とした高い建物の群は初めてみるものだったけれど、彼女に迷いは全くなかった。
 どうせ閉じこめられていたのだから、外に出られるなら何処だって同じだ。
 口唇の端にこぼれた赤い水を指先でそっと口唇全体に延ばす。ふと彼女は幼艶な微笑を浮かべた。

「495年分……何処まで行けるかしら?」

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食人鬼の再来

 路地裏で目覚めた。飢餓だけが全身を支配している。
 全身を包む熱さは、きっと寒気の裏返し。求めるものは渇望の充足。けれど求めたものは既に手の届かない場所にある。それだけは理解していた。

 だから代償で全てを埋め尽くそうと考えた。ココロの穴も、身体の穴も、飢餓も渇望も何もかも。

 足下まである黒い革のスカート──一見動き難いかのように見えるそれは、しかし大きく入った切れ込みのおかげか、かなり自由に足を動かすことが出来た。赤い革のジャケット、ポケットには大振りな折り畳みナイフ。
 彼の名を知るものは既にいない。いや、この土地、この時間に彼が存在すること自体、有り得ない。
 だって彼はとうの昔に死んでいる(・・・・・)はずなのだから。

 風にざらざらと揺れる金の髪を指先で揺らして、ゆっくりと歩き出した。路地裏を照らす蛍光灯の真白い光の中、荒野を渡る百獣の王のように、堂々と。

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そしてそれを追う者

 幻想郷の外れも外れ、現世との境、向こうとこちらを分ける博麗大結界のすぐ側に、一つ少女の影が立つ。
 幻想郷中の春を集めて咲かせようとした西行妖は、西行寺の娘の反魂の力を受けてなお満開に至ることなく散り果てた。
 けれどその強烈な死を操る力は、西行妖のすぐ側に彷徨い出た一片の霊魂を冥界から弾き飛ばし、現世に押し戻す。
 その霊魂は実体を得、意志を取り戻し、そして欲望を抱いて博霊大結界に突き当たり……そして打ち抜いた。
 結界の穴は直ぐさま塞がれたけれども──だから幻想郷の誰もがそのことをほとんど気にもかけていないのだけれど。
 彼女はとても気にしていた。だってそれは、彼女が西行寺の娘の我が儘を聞き入れたからでもあったのだし。
 故に彼女は主に一時の暇を乞い、此処にやってきた。幻想郷を飛び出した魂を狩り、連れ戻す為に。
 少女は背と腰に佩いた二刀を抜き放ち、じっと結界を見据える。打ち抜かれた箇所、弱くなった修復部分を見極めて──
 一閃。
 二百由旬を駆け抜けて、半霊の少女は大結界から飛び出した。

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街を守る為に巻き込まれる者

「……“食人事件(カニバルキラー)”?」
 梅雨曇りの空の下、昼休みの教室を席巻した噂話は血生臭い薫りのする言葉に象徴されていた。
 一週間と置かずに発生する猟奇殺人。被害者はバラバラになって死んでいるという。頭、首、胴体、肩、上腕、肘、下腕、手のひら、手の甲、五本の指。腰、腿、臑、足首、踵、足の裏、足の甲、五本の指。丁寧に、バラバラ、バラバラ、バラバラバラバラ。
 そしてそのうちのいくつかの部品が欠けている、というか食われている。直接かじり付いたように抉れている時もあれば、包丁で丁寧にスライスされたところもあるし、調理器具──蒸し鍋とか──を使った後もあるらしい。ともかく何かしら食われて欠損している事に違いない。
 始めは猫で、その次は犬。その後は人。人人。人人人。人人人人。人人人人人。
 被害者はどんどん増えていく。囓られた部分も、残された部品も、どんどんどんどん増えていく。正比例して右肩上がりのグラフは、とっくに枠を突き抜けた。
「ドイツ人を見習って欲しいものだわ」
 嘆息する彼女(・・)はこういう噂が好きではない。きっと同じ年頃の女の子なら、誰だってスプラッタは好きではない──少なくとも、フリをする。
 けれど彼女がそれを嫌いなのはそんな理由からではなくて……ただ、彼女の恋人──そう、恋人なのだ、あの朴念仁は──が、その事件に首を突っ込むことが目に見えているから困るのだ。
「──どっちにしてもやらなきゃいけないのよね」
 それがこの街──冬木の管理者たる遠坂家の長、遠坂凛の勤めだ。

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死者たちが動きだし、月夜の晩は大騒ぎ(カーニバル)

「なんであんたが此処にいるの、庭師」
「やっと追い着いたわ、U.N.オーウェン」
 少女達はは背中合わせに身構える。七色の幼い羽根と楼観剣が月光を反射し、闇に潜む影たちを薄明の中に暴く。
 蠢く影は躯、躯、躯。
「……てっきりあなたが犯人だと思ったけど……恨みでも買ったんじゃないの、食事下手」
「こんなにお行儀悪く食べたことないわ」
「……どうだか!」
 憎まれ口を叩き合いながら、二人は回転(・・)した。
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正義の味方、絶体絶命

「シロウ、危ない!」
 疾風のように俺の脇を駆け抜けたセイバーの不可視の剣(インビジブル・エア)が、目の前に迫るナイフをがつりと受け止める。
 ナイフを操る白皙の人はまるで裂けたみたいな唇をくっと吊り上げて笑った。
「……くっ」
 セイバーが小さく呻きを上げる。俺の足下に蹲った遠坂の魔力回路は閉じたまま、力を伝えては来ない。まるで切り裂かれたかのように力が断線している。
 ギリギリと剣とナイフが軋み合う。単純な能力、そして武器の性能。当然英霊たるセイバーが上を行くはずだ。けれど、爆発的な魔力の後押しがなければセイバーの膂力は十二分に発揮できない。そして敵は剣撃を受け流せるほどにナイフに習熟していた。
 力の均衡が崩れ、セイバーの姿勢が崩れた瞬間、()は人智の域を越えた跳躍でセイバーの頭上を飛び越える。
 跳躍の頂点はまさにセイバーの頭の真上、その一点に達した時、奴はナイフを振り下ろす。
「セイバー!」
 その瞬間、衛宮士郎の身体は何を考える間もなく動いていた──二度目の後悔を繰り返さない為に。

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存在に証明(Quod Erat Demonstrandum)すらもない波紋

 にっこり微笑む幼い吸血鬼(リトル・プリンセス)。その邪気のなさ、無垢な笑み、士郎は彼女が犯人だと思いたくはなかった。
 けれど、
「ねえ、判る? 食人を個の生理として持って生まれた()と、種の原則として持つ私たちの差」
 幼艶に微笑む少女の口唇は確かに赤く染まって、ふわりと楽しげに歪んだ。
 だから、「セイバー」と声を上げる事を戸惑う必要は、ない。
「この子は、敵だ!」

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「さくらのきのねもとには したいがうまつているのです」

 百獣の王は睨み付けていた。
 二ヶ月近くも遅れて、たった一本満開の桜……雨の中でも散り行くことなくただ濡れているそれは、()がただ一人愛した女のように凛とした印象を持っていた。
 黄泉還った彼の身体は生前と寸分違わぬものだったけれど、ただ一つ。その属性はあまりにも死に近い。
 血の流れはなく、ただ桜の花びらに似た二枚の羽根を持つ『反魂蝶』が、彼を生かしている。
「刻限は過ぎたわ」
 目の前の少女が言う。その手には二本の刀──死者を殺す楼観剣、迷いを断ち切る白楼剣。
「……そう易々とやられるものか」
 錆び付いた声帯で一声を発する。まだ食い足りない。折角取り戻したこの命だ──もっと、もっと喰らわなければ満たされない。
 彼の顔を見て少女は不機嫌そうに言った。
「お前は満足なんか出来はしない。
 これ以上喰らう事も出来ないように、綺麗に切って持って帰る!」
 その姿を見て彼は裂けたような笑いを口元に浮かべ、ナイフを身体の前で構えた。
「……ああ、ヤケに似ているな」
 笑みがどんどん深くなる。少女の姿、発する気配。一目には似てもいないが、彼にはとても似て見えた。……昔恋したあの女、人を殺せない殺人鬼、彼の命を奪った女に。
「……妖怪が造ったこの楼観剣に、切れぬものなど今度こそない!」
 刀の鍔が雨風に鳴る。剣風がぶつかり合って──

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それは生死の境界線。

それは再殺の物語。
それは無様な回想の時間。
それは相互不理解の物語。

回転する因が停滞した果を招く、
深夜の協奏曲。(Midnight Concert.)

Fate/stay night、空の境界、東方紅魔郷/妖々夢のクロスオーバー二次創作
Border of Life ~Midnight Concert.~

Coming soon!!

...うそぷー

投稿者 PsyKa : 個別記事 | コメント (0) | トラックバック

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